シゴトビト

シゴト、がんばる、ヒトのコト。

#17

(後編)「要するに自分は完璧主義で100点が取りたいだけなんだなと気づいたのです。80点でいいやと思ったら楽になりました。」

上海人雨而(レンユアー)系統技術軟件有限公司 総経理 松村 稔 氏

取材日:2015年11月

海外に進出している日本人社長と聞くとどんなイメージを持つだろうか?財テクに長けていて、超高層マンションの上のほうに200平米ぐらいのマンションを持ち、高級外車を乗り回し、ギラギラした仲間と夜な夜なパーティーを開き、日本であくせく働いている同年代の人々をなんとなく見下して、でもその分、英語も現地語もペラペラ――というような偏見を筆者は持っていた(ITバブルのころのヒルズ族のイメージ?)。そういう人もいるのかもしれないが、上海でシステム受託開発会社を経営している松村総経理(社長)は「普通の人」だった。だからこそ、彼の話から勇気をもらえる。
聞き手:森川滋之

●顧客が常州に工場を設立するというので

2003年からもう12年、海外で会社を維持してこられたわけですが、秘訣はあるのですか?

 別に戦略がすばらしかったというようなこともなく、ただ運が良かったと思うのですが、振り返ると不思議にあれをやっておいて良かったと思うことをやっているんですね。

それは面白いですね。具体的に教えてください。

 たとえば、顧客企業が「今度、常州に工場を設立するのだが、ネットワークの保守をやってくれないか」と言うので、求人サイトを使って常州で1名新規に現地採用しました。

 結果として、これによって普段はあまり経験することのない、工場の立ち上げに一から関われるという貴重な経験をさせていただきました。その後も、常州への工場設立時にお声がけいただくなど、これまでになかったタイミングでの引合いがいただけるようになりました。

採用の条件というのはあるのですか?

 一応「経験者」ということで募集しますが、中国人は未経験でも平気で経験ありと言うので、簡単なSQLを使ったプログラミングのテストでふるいにかけてから面接をします。給与水準からすると経験年数が1~2年の人しか来てくれませんから、判断基準としてはまじめで素直であれば十分です。

常州に行って良かったこととは何でしょう?

 お客様が増えました。常州にも日本企業は多く、紹介案件もありましたし、私自身現地の日本人交流会に出席してお仕事をいただきました。

●下請けでなく1次請けでないと面白くない

これをやっておいて良かったということは、他にありますか?

 2008年にオフショア開発から撤退したのも正解でした。日本にいてブリッジSEをやっていたころは、1次請けで本社と直接やりとりしていたので仕様決定もスムーズでした。しかし上海からだと、仕様協議に携われず完全な下請けになるので、仕様変更が多発して精神的につらかったのです。

オフショアから撤退したのは、下請けがいやになったということですか?

 そうですね。1次請けでも仕様変更が全くなくなるというわけではないのですが、ある程度は読めるので先回りできます。「お客さんは、この項目は1つでいいと言っているけれど、とりあえず複数入力できるように作っておいて」と指示すると、実際にその通りになることが多いのです。

 それだけでなく、仕事は直接請けないと、お客様の役に立っているかどうか良く分からないし、感謝もされないので、面白くなくなります。

 また、下請けだと業務関係のノウハウが残らないのも撤退した理由です。

●J-SOX対応で大企業と付き合いができた

他はいかがですか?

 J-SOX対応については、こちらも勉強しながら、つまりある程度手弁当で始めたのですが、やって良かったですね。

海外現地法人でもJ-SOX対応が必要なのですか?

 海外売上比率がある水準を超えると必要になります。ただ本社からは方針だけが伝えられて、システムへの実装や運用ルールの作成は現地法人任せというケースが多いのです。とはいえ本社への確認は必要です。しかし物理的な距離がありますから、本社とのコミュニケーションがスムーズにできません。

 コミュニケーションの問題は他にもあって、中国は日本以上に縦割りな面があるので現地法人の部署間のコミュニケーションもあまりありません。また日本人上司と中国人部下の間も同様です。

 そこでこれらの関係を取り持つブリッジ的な外部の人材が必要になります。私はブリッジSEをやっていたから、まさに適任でした。それで、けっこうお仕事をいただきました。

J-SOX対応をやって良かったことは何でしょう?

 上場企業が対象になるので、弊社の規模からすると不相応な大企業とお取り引きができるようになったことですね。

●kintone関連事業でさらに顧客が増える

現在実施している取り組みではいかがでしょうか? やっておいて良かったというのはありますか?

 はい。サイボウズのkintoneの代理店になっています。これも正解でした。

 きっかけは4年前ぐらいですね。以前お会いする機会のあった、サイボウズの営業の方から、「業務システムの開発案件の引き合いがあるのだけど、御社で対応できるか」と、お声がけをいただきました。その案件は受注できませんでしたが、それから関係ができて今に至っています。

いきなりkintoneで業務アプリケーション開発をできるものなのですか?

 VB6の前は主にAccessで開発をしていましたが、やり方が似ています。ある程度の技術習得投資はしましたが、かなり早く立ち上がりました。

逆にそんなに簡単なら受託開発企業の出番はあるのですか?

 あります。たとえばkintoneの標準では印刷機能がありませんが、やはり帳票はほしいという会社が多いので、出力されたCSVをExcelと連携して帳票印刷をするというようなカスタマイズをしています。

kintoneの代理店になって良かったのはどういうところでしょう?

 お客様が増えたことと、業務システムの開発効率が格段に向上したことですね。サイボウズとはお互い助け合えるパートナーとしていい関係が築けています。またkintoneに特化するというのはニッチなので営業もしやすいですね。

●情報収集はツイッターやはてぶなどから

ITの世界なので経営のためには情報収集も大事だと思います。どのようにされているのでしょうか?

 意識してネットを漁り歩くようにしています。ツイッターで面白そうな人をフォローしたり、はてぶの技術系を押さえたり、良い情報提供をしてくれるブログのRSSを登録したりしています。

ネットはいつ見ているのですか?

 1日1~2時間も見ていれば十分なので、通勤時間と会社で少しという感じですね。

 プラムザの島田社長もネットで知りました。誠ブログ(当時。現在はオルタナティブ・ブログに統合)に「開発にドキュメントなんていらない」というテーマの記事を書いていたのを読みました。

島田さんのどこに魅力を感じたのですか?

 そもそも同業の、つまりシステム受託開発会社の社長がブログをやっていること自体珍しいですし、弊社もできるだけドキュメントを作らないようにしているので、ツイッターで島田さんをフォローし、共感のコメントを書いたのです。その後、日本に出張したときに島田さんとお会いして会社を視察に行かせていただきました。

●ドキュメントはプログラマへの指示と経緯の記録だけ

なぜドキュメントを作らないのですか?

 プログラム設計書を書いても、納品時点で実際のプログラムとは違うものになっているので、その設計書ではメンテナンスができないからです。

 ただし、なぜこのような画面になっているのかは重要なので、それは画面に残すようにしています。

画面に残すとは?

 ユーザーインタフェースとして残します。ユーザーが疑問に思いそうな画面に説明文を表示するようにしています。

それは面白いですね。しかし、全くドキュメントなしで開発ができるものなのですか?

  プログラマに指示するための仕様書は書きます。画面イメージとデータベースの項目説明がほとんどですが、特殊な業務である場合はそれについて少し詳しく書きます。しかし、本当に指示用のドキュメントなので、実際に動作するソフトができたら捨ててしまいます。

 あとは、他の企業やシステムなどと連携する場合には、外部インタフェース説明書を作ります。そうしないと相手から接続できないですからね。

 それともう1つ。経緯を残すのは大事なので、議事録は書いて残しておきます。特に「やらなくていい」と決まったことは必ず残しておきます。それぐらいですね。

●大企業との取り引きは勉強になる。

中国に来て良かったと思うことはありますか?

 弊社の規模では不相応に大きな企業とお取り引きができるようになったことですね。一緒に仕事をさせてもらうことで勉強になっています。

どういうところが勉強になるのでしょう?

 私自身が大きな会社で働いたことがなかったので、大きな会社の仕事の進め方というか、社員の身の処し方というか。たとえば社内手続きは弊社の規模と比較すると圧倒的に面倒なのですが、そのような枠の中でどうやって仕事を進めていくのかが分かります。それが、次の大企業相手の仕事につながっていくわけです。

 またそのような制約を踏まえながらも、少しはみ出す担当者もいらっしゃいます。それはそれで人と組織ということを考えるうえで、生きたケーススタディーになりますね。

●日本にいいビジネスがあれば帰りたい

日本に帰りたいと思うことはありますか?

 食事は日本がいいですね。円安になっているので、日本は安くておいしいという感覚です。

 ビジネスという意味ではどうでしょうか。フリーの業務ソフト開発のエンジニアとしてやってみたいという気持ちが実はあるのですが、しかし会社を経営している以上はそれはできません。

 中国で仕事を請けて、日本で(中国から見たら)オフショア開発ができないかというのは今考えています。クラウドソーシングの相場を見ていると、安くて品質が高いプログラマが日本にはいますから。

 日本でいいビジネスがあれば、日本でやりたいというのが本音ですね。

東南アジア等への展開は考えていますか?

 日本の製造業が進出しているところであれば弊社にもチャンスがあります。実際タイあたりから声がかかることもあります。ただ現時点ではそこまでの体力がないのでお断りしていますが。体制が整えば、ぜひチャレンジしてみたいですね。

お子さんの教育という面ではどうなんですか?

  実は日本の教育を受けさせたいと思っています。日本流の作法を身につけてほしいと考えているからです

 ただ本当に将来のことは分からないですね。娘にはいろいろな体験をさせてあげることが一番だと思っています。

 ちなみに妻は日本に住みたいと思っていないようなので、日本に帰るというのはあまりない選択肢かもしれませんね(笑)。




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