シゴトビト

シゴト、がんばる、ヒトのコト。

#15

(後編)「“突撃しまくる”というのが僕の行動原理なんです。そうしながら、同志と面白いことができるしくみを作っていきたい。」

アーティスト、ウマミタス代表 宇田川ガリバー哲男さん

取材日:2014年10月

関東で台風18号が荒れ狂って数時間後。台風一過の青空の下、新宿サザンテラスのリトル デリリウムでアーティスト(シンガー)であり、音楽プランニングブランド「ウマミタス」の代表でもある宇田川ガリバー哲男さんのインタビューを決行した。
聞き手:森川滋之

●コースはいろいろあると気づく

そこから変化があったんですね。きっかけは?

先ほどのストリートダンスコンテンストで優勝した子が……

「子」って女性だったんですね?

 そう。彼女が、ダンサーとして大活躍しながら、EXILEとコラボしてCMソングを歌うようになっていて。歌もやりたいと言って昔から作曲していた努力も見てきたので、ここでもまた「こんなんじゃあの子にかなわない」と。

 ちょうどその頃、ストリートミュージシャンや弾き語りのアーティストの活動の仕方に目が向くようになりました。当時はCDの音源だけで歌ういわゆる「シンガー」というスタイルは少なかったんですが、より活躍の場を広げるためには、弾き語りの人たちのようにショッピングモールでの演奏やお祭りに参加する必要があると考えました。

方向転換ですね。

 それまではライブハウスで演奏していましたが、集客が大変で。五月雨式に招待メールを打って、友達を失ったりとか。ところが、ショッピングモール等で演奏するようになると、今までの集客難が嘘のように人が集まるようになりました。会場で知らない人が声をかけてくれたり、CDを買ってくれたりする。

 反応があるのはいいなと。一般の人が聞いてくださるありがたみを実感しました。それで、自分のポップ路線にも改めて自信を持ったんです。

 で、お祭りの主催者やショッピングモール、それこそ地方にも営業活動をして、続けるうちに面白がってくれる人が増えてきました。社会人にもウケました。

どうやって営業したんですか?

 ひたすら電話してライブですね(笑)。テレアポのバイトもやってましたから抵抗なくて。事故から救ってくれた人たちに喜んでもらうことで恩返しをしたいという気持ちをどこでも赤裸々に語っていました。そうしたら、あるラジオDJを通じて自治体が興味を持ってくれました。

●縁もゆかりもない地で

自治体のイベントですか?

 2012年に長野技能五輪(アビリンピック)という年に一度の大手企業の若手技術者の技を競う全国大会がありました。あるラジオのDJがそれをサポートしていたんです。僕はその人のライブイベントに行って話をしたら、2日後に長野県に僕のことを推薦してくれました。で、長野技能五輪の公式サポートソングを作ることになったんです。公式テーマソングは既にあったんですが、DJの方が公式サポートソングという枠をわざわざ作ってくれました。

 開会式と閉会式、およびキャンペーンのある度に長野に出かけました。五輪終了後に、県知事から感謝状もいただきました。

 僕はずっと東京育ちで、長野県には縁もゆかりもありません。なのに、こんなことが実現してしまう。本当にびっくりしました。

お金の交渉も宇田川さんご自身で?

 この時はDJの方にアドバイスをいただきながらでしたが、ちゃんと信頼を得れば額が1桁違うし、待遇もいいんです。その分、責任も伴います。なので、自ら積極的にプロモーションしますし、自分の見られ方も意識するようになりました。先方がフィーチャーしても恥ずかしくない人間になろうと。

●人として面白みがないと通用しない

話は変わりますが、若いミュージシャンの育成もやっているとか。

 育成というと上からですが、仕事の場ができるようなサポートをしています。

自分だけちょっと成功したところで、意識の高いアーティストのシーンが無ければ自分が続けていくこともできないと思うんです。

 あと、若い人だけじゃないですが、音楽をやっている人たちに、なぜ自分は音楽をやっているのかという答えがないと感じることも多いんですよね。

 自分の歌で勇気を持ってほしいとか、頑張っている人を応援したいとか、そういうきれいな言葉はあるのですが、抽象的ですよね?本当か?と(苦笑)。本当だとしても、大切なのはその思いを表現することなのに、活動も情報発信もあまりしていない人もいる。なぜか?きっと、場や方法やルートが分からないからだと思うんです。だから、自分のためにもその環境を開拓して、ノウハウをシェアしていこう、と思ってやっています。

宇田川さんには「恩返し」という強い動機がありますね。

 僕は紅白やMステはもちろん、「情熱大陸」とか「カンブリア宮殿」なんかに出たいと思っています。そういう人間のドキュメンタリーで取り上げてほしいという夢も持つようになりました。この取材も夢の第一歩がかなった感じがして嬉しいです。

 要するに、人間として面白みがないと。音楽だけではなく、人間性も磨いていきたいですね。

音楽自体は楽しいですか?

 僕はずっとアパレルで接客をしていました。これがライブでその場の空気を読むのに役立っています。うまく「接客」ができて、お客さんが喜んでくれている実感があると最高ですね。

 接客業をやっていたのも、喜んでもらうのが好きだったからです。年配の方むけのショップでも働いていましたが、買ってくれたお客さんが「息子のコーディネートも頼むよ」と言ってくれるんです。接客冥利につきますね。

共通するのは、まず自分が楽しむということで、その楽しみを得るために努力するということですね。

●「突撃しまくる」

いろんな取り組みをしておられるように見えますが。

 メインはあくまで音楽ですね。自分はアーティストだと思っています。ただ、発表の場を自分で作るようにしていたら活動範囲が拡がっていきました。

 「突撃しまくる」というのが僕の行動原理なんです。

 人脈って、一周しちゃうときがありますよね。「世の中せまいね」みたいな。そうなると自分は成長していないなという気になるんで、一周したらそのときはできるだけ動いてみようと思うんです。

プラムザの島田さんと知り合ったのも「突撃」の一環ですか?

 そうです。音楽業界を俯瞰してみたら、これからはITとの結合じゃないかと思ったんです。アプリと音楽の融合みたいな。実は、そんなことは既に試されていたと後から知るんですが、とりあえずソーシャルゲームを作っている有名な会社に勤めてみました。

それはまた、すごい行動力ですね。プログラマとしてですか?

 いえ。事業開発です。有名といってもベンチャーですからいろいろ冒険させてくれるかなと思ったんですが、社内のキーマンを突破しないと何もできない。ところが、そのキーマンとは価値感が違っていたようです。自分のアイデアは取り上げてもらえませんでした。もちろん実力不足の方が要因だったと思いますが。

 ですが、このときの経験は、今のプランニング事業に役だっています。リーンスタートアップ(試行錯誤しながら早期に事業を立ち上げるというビジネスモデル)やロジカルシンキング、あるいはマーケティングなど、スモールビジネスの基本は、この会社で教えてもらいました。

 システムインテグレーターとも協業していたので、彼らの仕事や手法等をネットで調べていたら、いつも引っかかるブログがあるんです。「そろそろ脳内ビジネスの話をしようか」というタイトルです。それを書いていたのが島田さんでした。

 「脳内ビジネス」という言葉は一般名詞かと当時は思っていました(笑)。

●スピード感に感じ入った。

それで、島田さんに「突撃」した?

 音楽をクラウドソーシング化できないかと思って、2013年にいくつかの会社にメールをしました。そのときに即レスしてくれたのが島田さんでした。  僕自身、ものすごいスピードで情報収集していたので、島田さんのスピード感に感じるものがあったんです。それをきっかけに何度かお会いするようになり、ダメ出しもいただきました。  僕自身、企画を出したことは何度もあったわけですが、実際のサービスにまで至ったことはありませんでした。そのような状況で、親身になって経営のことを教えてくれたのが島田さんです。 冒頭の誠ブログの執筆も島田さんの勧めのおかげですし、ご紹介いただいた誠ブロガーで元アーティストの生内さんからもアドバイスをいただいたりと、感謝しきりです。

●マインドのある人が音楽業界から去っていく流れを止めたい。

順調に世界を広げている様子ですが、アーティストとして目指す方向は?

 アーティストのキャリアパスとしては、プロデュースや作家に進むケースが多いです。でも、僕はやっぱりまずはアーティストとして成功したい。そこに価値があると思っています。

 小銭を稼ぎだすと人間了見が狭くなります。すぐにお金の話になるんですね。一緒に何か面白いことをやろうと相談しにいっても、先に「予算はどれくらいあるの?」と聞かれます。ただ金があればできることなら誰でもできます。そうじゃない価値を提案し合えるクリエイティビティがお互い無いと、お金にもつながりません。

 音楽作家で長岡成貢さんという方がいます。初期のSMAPや「JIN-仁」のサントラを手がけた人です。長岡さんが音楽業界に危機感を持っていて、「マインドのある人は音楽業界から離れていってしまう」とおっしゃっています。とくに、志のある若者がうまく使われて放り出されてしまうような流れを止めたい。

 アーティストとしての新しい活動スタイルを提案して「同志」を増やしていきたいんです。その仲間としっかりお金になることをやって、若者や社会に音楽っていう仕事の価値を伝えたい。

具体的などんな活動を?

 音楽家のクラウドソーシングを作りたい。作詞家・作曲家・演奏家・エンジニア・プロデューサーなどが誰でも登録できて、音楽を作りたい人や会社が最適な人を調達できるしくみです。まったく音楽を知らない人でも、自分の好きな音楽を世界中のリソースを使ってカスタマイズできるようにしたい。

 アーティストのクオリティのジャッジはアーティストがするような評価システムも作ります。それはモノづくりをするアーティストにしかできない仕事ですから。売れる物を狙って作るのではなく、生産のプロとして意義のある物を作り、それを売るプロとマッチングしていけたらいいと思っています。

●現在の音楽業界と併存を目指す

現在の音楽業界の問題点は何でしょうか?

 業界を構成しているのは、パブリッシャー(音楽出版社)とレーベルと事務所の3つの組織が主なのですが、売上の規模が小さくなれば分配も減る。なのに、じゃあ余計な組織やマージンを省こう、と舵を切るのは大組織ほど難しい。電卓を叩けば分かることなのに、アーティストが幻想を見てしまっている。これが大きな問題です。

本当はアーティスト自身でできるのに、できないと思っていることも多いんですよね。

 とはいえ、アーティストが世界中の誰とでも契約できるしくみや、企業や公共団体から直接お金がもらえるようなしくみを作るには、そういうことができる「アーティスト層」がいることを明確に発信して認知してもらう必要があります。これは一朝一夕ではいかないので、根気強く戦略的に活動しなければいけません。

既存の「音楽業界」をぶっ飛ばせ!ということですか?

 そうではないんです。既存の業界はこれで、エンターテイメントの世界で大きな役割を果たしています。ただ、既存の業界だけだとアーティストのチャンスが少ない。併存してやっていければと思っています。音楽を届けたい人のオルタナティブが必要であり、それを一緒に作る仲間が必要なんです。

それができたら、既存の音楽業界の方も自然と振り返ってくれますよ。実際、歴史上の音楽レーベルの在り方がそうでしたから。

ただ、そこに頼るのではなく、自立して結果的にパートナーシップを結べるところまで持っていきたいですね。

そのためにはどういうことが必要でしょう?

「突撃」ですね(笑)。まず、僕自身が凡人のくせに胡散臭いイメージがあってはいけないので、いろいろと実績を作っていかないとダメでしょう。 そして、ノウハウをシェアして仲間を作っていく。

 その大前提として、良い音楽を作って表現するアーティストであることが重要です。

今回のフィリピンとのつながりで、フィリピンで3曲制作し、動画でプロモーションをしました。そうしたら、フィリピンのアーティストが気に入ってくれて、さらに曲を書いてくれという話が来ています。

アーティストにリスペクトされる仕事をしていけば、自ずと道が見えるというのが実感としてあります。

 それ以外にも、情報発信を続けていくことが必要でしょう。度々お話しているとおり、アーティストには謎が多く、怪しいイメージも持たれていると思うんです。一見ミステリアスで良い面もあるように思いますが、お金が動く現場では信用が全てです。

同年代が家庭を持つようになり、友人からもクラブやライブハウスへは足を運べないという声を耳にします。

僕はカッコいい音楽を親子で気軽に楽しめて、子供が音楽に憧れを持つような環境を作りたいんです。

そのためには、職業としての音楽の在り方を分かりやすく発信し、アーティストの社会的地位を向上させる必要があります。

アメブロや誠ブログのような場に、自分が実際に動いて、引きつけられたり、失敗したり、あるいは成功したりした話をこれからもどんどん紹介していくつもりです。
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