シゴトビト

シゴト、がんばる、ヒトのコト。

#13

(後編)「『天国に行くのに最も有効な方法は、地獄へ行く道を熟知することである』という言葉を胸に刻んで経営しています。」

北良株式会社代表取締役社長笠井健さん

取材日:2014年09月

北良は今年でちょうど創立60周年を迎える、岩手県北上市にあるガスとそれに伴うサービスの供給会社だ。家庭用、産業用、医療用の各分野で顧客と地域に貢献することを目指している。社長の笠井さんは、以前から武蔵野の小山昇氏の経営塾で学び、小山流マネジメントを実践してきた。また、2011年の東日本大震災での苦い経験から、災害時に貢献できる会社を作り上げてきた。災害に強い人と企業とはどのようなものなのか。大災害が起こっても生き残りたい人は必読である。
聞き手:森川滋之

●1年掛けて基幹系システムを作り直す

会社を継ぐと決めたきっかけを教えてください。

サンで3年間働いた時点で、なんとなく戻って家業を手伝うほうがいいかなと思いました。26歳になっていたので、漠然とキャリアのことを考えたのです。会社にも仕事にも何の不満もなかったのですが、ネットバブルが弾けたころで大規模なリストラがあったんです。後輩が大量に辞めていきました。中高年に達していた人は、数年分の給料に当たる退職金をもらって辞めていきました。高々3年いただけなので一人前には程遠いのですが、大きい会社で働くということはこういうものなんだということを学んだ気がしました。

それで、実家に帰ったときにこちらから親に「会社を手伝わせてください」と頼んだんです。

すぐに社内のポジションが得られたのですか。

いいえ。まずは先代から同業他社で勉強して来いといわれました。名古屋で2年間営業をし、その後岐阜で半年働きました。

北良に戻ってからは、会社の仕事をあらかた経験しました。そのときに、基幹系システムを全て入れ替えることにしました。当時のシステムはオフコンで作っていましたが、操作性も悪く、やりたいことも殆どできない。会社経営に必要な数字もよく見えない状態でした。結局、地元のシステム開発企業にお願いして1年掛けて作りなおしました。

よく当時の社長(先代)が賛成されましたね。

そうですね。普通二代目・三代目社長が何かしようとすると古株社員の反対がつきものなので、教科書的には「後継者は10年掛けて社員の信頼を得よ」と言います。ただ、当時のシステムの出来が悪すぎて、変えることに誰も反対しなかった。(笑) それに幹部社員も私と年齢があまり離れていなかったですし、先代が二代目として苦労していたので、三代目の私には同じような苦労を掛けたくないと思っていてくれたことです。

基幹系システムのリプレースですから、発注側が業務を完全に理解していないとできません。時間をかけて業務分析をすることで、会社の仕組みもよくわかりましたし、顧客のプロフィールもよく分かりました。この経験を踏んだことで経営者としての基礎ができました。

その基幹系システムを今また作りなおしているそうですが。

はい。現在、次期基幹業務システムの開発をプラムザさんにお願いしています。実は、前回の基幹系刷新のときに楽天ビジネスというマッチングサイトを通じてプラムザさんを知り、提案をお願いしました。そのときは、北上と岩手の距離が気になったので、結局地元の業者にお願いしましたが、フットワークの軽さと率直な提案スタイルが印象に残り、いずれプラムザさんとは仕事をお願いしたいと思っていました。

今はネットワークも速くなり、クラウド環境で作成中のシステムもチェックできます。打ち合わせの大部分はSkypeでプロトタイプのデモ環境を操作しながら進めるています。遠距離開発の不安がなくなりましたので、岩手と東京で距離は離れていますが、思い切ってお願いすることにしました。

●災害に強い会社


北良ならではの社会貢献の取り組みがあれば教えてください。

会社のテーマでもありますが、事業を通じて災害に強い社会をつくること。

サポートする我々の災害対応力を強化するとともに、ガスを利用するユーザーを災害に強くすることです。

実は、LPガスは災害に強いということを知っていましたか?

いえ。知りませんでした。都市ガスとどう違うのでしょうか。

LPガスは、まず地震による供給停止の影響が最も少ないエネルギーです。都市ガスでは配管が地下に埋められているので、東日本大震災級の大きな地震では長期の供給停止に見舞われることがあります。それがLPガスでは、自宅にガスボンベが設置されることで、自分だけのエネルギー備蓄ができますし、揺れを感じてガスメーターで供給が遮断しても、ボタン1つで復旧が可能です。

そもそも、配管がないので、持ち運び自由。つまりどこでも炊き出し用に使うことができます。また、発電機があれば発電にも使えます。タクシーの燃料で使われていることからも分かるように自動車を走らせることも可能です。しかも、ガソリンや灯油などの石油系燃料よりも排気ガスがとてもクリーンです。

災害時にこだわる理由は何でしょうか。

2011年の東日本大震災の経験からです。そのときも病院や在宅患者の支援のため、医療用の酸素ガスをずっと供給していました。24時間体制で対応にあたり、LPガスがあったおかげで社員と家族の食料を3食とも作ることができました。

●安否確認のシステムも

また、その他に「ANPY(アンピー)」という在宅患者の安否確認システムも作りました。

これは、在宅患者の自宅の停電を把握するシステムです。在宅患者にとって電気が途絶えるということは生死に繋がりますので、通電状態を監視するというのはとても重要なことです。ANPYでは、通電状態を常時リアルタイムで監視していて、停電があるとメールでメッセージが飛んできます。東日本大震災を経て、携帯電話の基地局の災害対策も進んでおり、電話は繋がらなくなってもデータ通信は生きている可能性が高い。それでメールでの通知手法を採用しました。

システムは、携帯可能な箱に入っていて、患者が持ちだして避難すれば、GPSで位置情報をクラウド上に記録していくので、どこに避難したかが足取りまで含めて分かるようになっています。東日本大震災のときはローラー作戦避難所を回って安否確認しました。これがかなり大変だったので、ANPYを開発したのです。

すごいですね。地元以外で災害があったときにはどうされますか?

現在、ある地元企業と一緒に、一度満タンにすれば3,000km走れるプリウスを開発中です。これは南海トラフによる震災があったときにトレーラーをつけて、京都あたりまで支援物資を運んで往復しようと考えているからです。

LPガスとガソリンを両方使用できるバイ・フューエル車と呼ばれるものです。実はLPガスとハイブリットカーは相性がいいんです。

なぜですか?

LPガスは安価なのですが、通常のガソリン用のエンジンで回し続けると熱が出過ぎるんです。なので、あまり長距離には向かない。ところがハイブリッドカーは半分程度はエンジンが停まっているのでエンジンの温度が上がりにくいんですね。

なお、この開発には自社で運営している2つのメガソーラー発電所での売電収益を活用しています。

●災害に強いクリアファイル

ANPYとプリウスがわかりやすいので、この2つの例をお話ししましたが、この他にも「災害に強い人づくり・モノづくりプロジェクト」にいくつか取り組んでいます。どれもニッチなものですが。

たとえば、災害に強いクリアファイルというものも作りました。これは、日本語と英語とイラストで、避難所にいる外国人とコミュニケーションを取るためのツールです。

人づくりの取り組みも教えてください。

これは、まだ育成プログラムを作っている段階です。ひとことで災害対策と言っても、範囲も広いし、何を教えるのかまだ詰め切れていません。

目標とする人材像はあります。まず避難所を運営できること。炊き出しができたり、家の修理ができたり、電気設備等の工事ができることですね。炊き出しに関して言えば、アレルギーの知識もないといけない。せっかく助かったのに、強い食物アレルギーで亡くなったりしたら元も子もないですから。

あと、衛生管理は特に重要でして、たとえばワイドハイターをどのぐらいに薄めれば除菌効果があるのかというようなことを知っておいてほしい。手洗いやトイレの設営など衛生に関する知識も重要ですね。

●助ける側の人間を増やすことが重要

理想は、誰でも当たり前にこういうことができる社会を作りたいのですが、一足飛びは無理です。徐々に育てていくプログラムを作りたいと思っています。

北良の社員を育成するのですか。

北良としては北良でできることに取り組みますが、このプログラムはホテル・旅館業界にまず導入したいと思っています。災害時には一番の受け入れ施設になりますからね。

災害があったときには、助ける側の人間を増やすことが重要だと思うのです。支援を待っている人ではなく、自発的に働ける人を増やしたい。基本的には自助、共助、公助の順です。避難所でも、何もしないより自分ができることで集団に貢献する方がいいですよね。

我々がすぐ取り組めることはありますか。

まず自助、つまり自分を守ることです。水と食料の備蓄は少なくとも3日分。その他にサランラップが大量にあるといろいろなことに使えます。また、大きなビニール袋もたくさん用意しておいてください。洗濯もできるし、防寒具にもなります。水蒸気を集めて水を確保することもできるんですよ。

●中小企業でも大企業よりイキイキと働ける

企業には社会に対する約束や責任があると思うんです。当社で言えばガスの供給で終わりではなく、災害時に身を守るツールとして使ってもらうことを考えています。。医療用ガスの販売も売って終わりではなく、製造すること、届けることに至るまで災害時の措置を考えてオペレーションを構築しています。

強い使命感は、東日本大震災の被災地だったからですか。

もちろん、それはあります。ただ、中小企業だからこそ、できることが結構あるなということにも最近、気づいてきたのです。

どういうことでしょう。

実際の経験からわかったことは、大きな会社ほど災害時になかなか臨機応変に動けないということでした。コンプライアンスや内部統制も大事だと思いますが、何かイレギュラーなことを頼んでも現場ではすぐに判断できないんです。必ず、本社にお伺いを立ててからということになります。

これは自分も大企業で働いていたことがあるので仕方ない面もあると思います。ただ、正直、ルールは何のためにあるのかということを考えさせられますよね。法律を守るのが大事なのか、人の命を守ることが大事なのか。赤信号でも道の向こうに倒れている人がいるのなら渡って助けるのが正しいじゃないですか。日本中、何か間違ったコンプライアンスが幅を利かせて、イレギュラーなことに対する思考が停止してるんじゃないかと。

要は優先順位の問題なのです。こういうときにはルールを破ってでも動いていい――こういうことを自分の頭で決められない人が多い。特に大企業の現場では判断が難しい。なので、中小企業である我々が社長も社員も一丸となって積極的に取り組んでいこうと思うのです。

そういう意味では、私は中小企業でも、いや中小企業だからこそ大企業よりイキイキと働けると思っています。少なくともそういう会社を目指しています。

北良のマネジメントは、整理整頓の取り組みだけでも災害に強いと思います。社内の情報が隅々まで一元化されていて、どこに何があるかがすぐわかるので業務再開も早いはずです。また、職場環境を整えながら、普段から自分の頭を使うような業務の仕方もされています。何よりも規律があるということは災害時の行動にも良い影響があると思います。小山流のマネジメントは災害に強いということにもつながる、と思いながらお話を伺っていたのですが。

それは確かにそうですね。ですが、まあそれは目的というより手段であって、本来の目標は「みんながイキイキと働ける会社」作りなんです。

人生における一番のご褒美は、「いつか成長した自分自身に会えること」なんだそうです。自分の能力を伸ばし、誰かの為に役立てて認められたいという欲求を殆どの人が持っています。特に日本人はそうだと思うのですが、そうした人達が成長し活躍できる場を幾つも作り出していくのが経営者の役割というか醍醐味なんじゃないですかね。
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